SHOKZ 「OPEN SWIM」

モノ

子供時分、スイミングスクールに通っていた。
5歳くらいから中学校に入るまでの8年間、泳ぎ続けた。
なのでクロールからバタフライまで、ひとしきりの泳ぎ方は習得している。
別に好きでも無かったし、正直しんどくてやめたいと思うことも多かった。
なぜ続けられたのか、今思い返してもよくわからない。

大人になって、すっかり「泳ぐ」という機会は無くなった。
海水浴にすら何年も行っていない。
そもそも水泳に対し楽しいイメージが無く、「泳ぎたい」という欲望が湧かないのだ。
そんなこんなで冷たい水に浸かる機会はサウナ後の水風呂を除き何年もなかった。

ここ最近、仕事や私事のストレス発散を酒ばかりに頼る日々が続いた。
流石に体に悪かろうと、適度な運動をしなければならんという強迫観念が強まり、筋トレやランニングに手を出してみる。
筋トレはそこそこいい結果を出し、体つきも少々改善されたが、いかんせん飽き性なので徐々に回数が減っていく。
ランニングは膝が痛くなり危機を感じたので却下した。

いつの間にか酒に逆戻り、元の木阿弥である。
ベルトのボタンが一つずれると流石に罪悪感が大きいのでその前に手を打たなければならない・・・

そうだ、水泳があるじゃないか。
水泳は言わずもがな全身運動だし、かつ膝への負担は極小だ。
さらに都合のいいことに家から徒歩圏内に県内でも最大規模の市民プールがあるではないか。

ということで数年ぶりに泳いでみる。
いいじゃないか、心地よい疲労感だ。
さらにはある発見をしたのだ。水の中は「非日常」であるということだ。当たり前と言えば当たり前だが。
「非日常」はストレス発散に対する重要なパラメータだ。
この非日常をさらに加速させたい。何か方法はないか?

・・・もしかしてきょうびの音楽プレイヤーであれば水の中でも使えるものがあるのでは?

あった。普通にあった。
すごい。技術の進歩すごい。

何個か調べてみると、普通のイヤホンタイプと骨振動タイプがあることがわかる。
イヤホンタイプは構造上スピーカー部分にゴム膜が無いと防水出来ないようなので音質が悪いことは容易に想像できる。
骨振動というのは経験が無いのでそもそもの音質レベルを知らない。
実店舗に足を運び試聴してみよう。
「SHOKZ」というメーカーがマーケットリーダーのようである。

家電量販店に行くと、売り場の中でも目立つ角棚に「SHOKZ」の文字。
骨振動、初体験。

すごい、予想以上の音質の良さ。
流石に高級帯のイヤホンと比較すれば劣るが、全然鮮明に聞こえる。
少しくすぐったい感じがあるが、すぐ慣れるだろう。
OPEN SWIMというモデルが水泳対応モデルのようだ。
防水性はもちろんのこと、水中はBluetoothが届かないので内蔵メモリが必須になる。
普段使い用にBluetooth通信も併用できれば嬉しかったが、流石にそこまでの機能は無いようだ。

ただ、¥22,000は即購入を決断するには高すぎる値段だ。
またすぐに飽きるかもしれないし、まずは安いものからでもいいかもしれない。
結局、HACRAYというメーカーのSEAHORSEというものを購入。
価格はOPEN SWIMの約半分で、さらには内蔵メモリとBluetooth通信がどちらも使えるのである。カタログスペックで比較すれば完全勝利のSEAHORSE君、その音質はどうか?
早速聴いてみる。

・・・微妙だ。
SHOKZを聴いていなければ骨振動はこんなものかと、妥協していただろう。
まあ折角なので曲を入れてプールで使ってみよう。

iTunesから曲をドラッグアンドドロップ・・・
出来ない。どうやらMP3に変換しないといけないようだ。
面倒くさい。ありえない。なぜこんな仕様にした?MP3っていう単語見るの何年振りだ?
などという感情が渦巻くも、変換用ソフトをインストールしてせっせとMP3化していく。
この時間を金に換算すればSHOKZの方がよっぽど安いのでは無いかと思ってしまう。

まあ何はともあれ、準備完了である。
いざ水の中へ。

音楽をかけ、ゆっくりと入水。
まず、潜水。
水の中の方が音質が少し良くなるようだ。

・・・没入感。現世と隔絶されているかのような感覚。
水底のブルーラインがこんなにも美しく見えたのは初めてだ。

こうして新たなる趣味を迎えたのも束の間、数回の使用でSEAHORSEが臨終した。
全額返金対応してもらえたのでさしてダメージはないが、手間を考えると最初からOPEN SWIMを買っておけば良かった。僕以外にも壊れたというレビューが散見されるので構造的に欠陥があるのではないだろうか・・・

さて、満を持してOPEN SWIM君を購入。
曲を入れる。今度は普通にiTunesからドラッグアンドドロップ出来た。

SEAHORSEにも耳栓が付属していたがOPEN SWIMには耳栓、鼻栓、そのケース、そして全部が入るラバーケースが付いている。
こういう気遣いは嬉しい。
そしてそのどれも綺麗につくり込まれている。デザイン、質感も秀逸だ。

SHOKZという企業について少し調べてみる。
2011年、米ニューヨークにて創業。
骨伝導技術について1,000件以上の特許を出願。
(あくまで「出願」であって「保有」では無いが10年弱でこれは立派な数字だろう)
技術的なブレークスルーと共に成長してきたメーカーのようだ。
このようなメーカーは特許が切れる前にブランドを確立しておかないと後追いに容易く追い抜かれてしまうがSHOKZにはその心配は無さそうだ。完全に骨伝導イヤホン=SHOKZというブランディングが確立済に見える。

話が逸れたがまずはOPEN SWIMを使ってみよう。

電源ON。
すると「プツッ」という起動音の後に「SHOKZへようこそ、バッテリーは充電されています」というナレーション。
この「プツッ」という起動音、初めて聴いた時はなんでこんな音にしたんだろう?と思った。はっきり言って気持ちのいい音ではない。イヤホンジャックをいきなり抜いた時のあの音に似ているのだ。大概の人が不快に感じるのでは無いだろうか?
何故、この起動音を採用したのか、少し考察してみよう。
SHOKZのイヤホンの全てがこの音で始まるのか、どのくらい昔からこの音を採用しているのかなどは知らないし、あくまで個人的予想である。

ぱっと思いつくのはメーカーの名前「SHOKZ」からくるイメージである。
「ポワワ〜ん」で始まっては「ショック」という単語は思い浮かばない。
かといって「ドカーン!」や「バーン!」ではうるさすぎて起動の度に萎えるだろう。
こう考えると「プツッ」は文字通りショックを与える音でありかつ適度な加減である。
「驚き」という感覚も重要な要素かもしれない。
考えてみれば、骨振動を体験したことが無い人が初めて骨振動で聞く音がこの起動音である可能性は高い。
初めてSHOKZを装着し、初めて電源を入れる。
すると「プツッ」というショックが骨を伝わり鼓膜に走るのである。
そして「おぉ、これが骨振動か」と驚くのだ。
不快と前述しておいてなんだが、なかなか秀逸な起動音に思えてきた。

おや、読者諸氏の早く水に潜ったレビューを書けという心の声が聞こえてきた。
考察はこのくらいにしよう。

準備万端で市営プールに向かう。そして入水。

・・・凄い、超音いい。
通常モードと水泳モードがあり、水泳モード&耳栓が素晴らしい。
SEAHORSE君、すまんが君とは比べ物にならない。レベルが違う。
Bluetooth機能と価格で勝ってはいるが、やはりイヤホンの本質は音だろう。
これが及第点に上って初めて比較対象となるのだ。
色々な骨振動イヤホンを試したわけでは無いがベンチマークのSHOKZは現状一人勝ちではないだろうか?
そもそも骨振動という選択肢をあえて取る人は多く無いだろうから大手メーカーも乗り気で参入しないだろうし、これはおいしい商売かもしれない。目の付け所がシャープだった。
骨振動イヤホンと水遊びは相性がいいのだからもっと防水モデルにも力を入れてほしい。
それこそBluetooth機能とメモリ併用の最強スペックのモデルを出してくれ。

操作感についても語っておこう。
インターフェースが4つのボタンだけなので手順を覚えていないとやりたい操作が出来なくてまごつくことはあるが、僕は基本シャッフル再生しかしないのでさして気にならない。
(最初はどこにボタンがあるのか分からず耳の裏をまさぐる変人になるが気にしてはいけない)
通常の音楽プレイヤーのように画面がないので比較すると不便なのは間違いないが、特にストレスも感じない。
ただ一つ、許せないことがある。

シャッフルモードで聴いていて「あ、この曲繰り返し聴きたい」となり、リピートモードに切り替えた途端に曲の頭から再生されるのである。何故こんな仕様にした・・・
文面では伝わらないと思うが、意外にストレスなのだ。
人は誰でもシームレスに生きたい。なめらかに暮らしたいのである。何故シャッフルモードに切り替えただけで素晴らしい音楽体験を一度中断しなきゃならないのか。
理由があるならぜひ聴きたい。
・・・まあでも不満と言えばそれくらいである。

僕が水の中で何を聴いているのか書いておこう。
シーンに合った音楽というのは個人差はあれど必ず存在する。
僕は普段HR/HMをメインで聞くが水の中で聞く気にはなれないのである。
エレクトロ系も好きでこちらは水との相性は良いと思う。
何故かと言われると、これはもう感覚の話なので言及は避ける。
ということで水の中ではBOOM BOOM SATELLITESを聴いている。
これが最高なのである。
Broken mirrorなんかを聴きながら潜水すれば全てを忘れて水の世界に没入できる。

そういえば骨振動で思い出すのはかの有名なベートーヴェンだ。
耳が聞こえなくなってからも口に咥えた棒の先端を楽器に当て骨振動を頼りに作曲したそうだ。
(ロマン・ロランの「ベートーヴェンの生涯」を途中で投げて積んでしまっていたのを思い出した。現代人には甚だ読みにくいので新訳版とか無いだろうか・・・)
しかし考えてみると骨振動というのは18世紀から応用されていたわけだ。
温故知新である。

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